2024.10.15 牛尾
私は、日本共産党渋谷区議団を代表して、認定第1号、令和6年度渋谷区一般会計歳入歳出決算に反対の立場から討論します。
2024年度は、消費者物価指数は前年度比3.5%増で、賃金上昇率の3.0%、年金引き上げ率2.7%を上回り、賃金も年金も前年度に続き実質低下しました。また、商店・中小事業者は、インボイス制度が平年度化され、売上げが減っていても通年で消費税の納税が課せられ、深刻な影響を受けました。
渋谷区には、悪化する区民の暮らしと区内業者の営業を守り、福祉を向上させる自治体としての役割が、とりわけ強く求められていました。
しかし、この年度の予算執行は、渋谷駅周辺再開発や、住民無視の玉川上水旧水路緑道再整備などに多額の税金を投入する一方で、物価高騰対策としての予算は、ポイント還元のハチペイだけで、困っている区民に行き届く支援は行われませんでした。さらに国の社会保障の切り捨てに追随し、国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療保険料のトリプル値上げを強行しました。史上最高の区税収入を見込みながら、高齢者の敬老金を大幅削減し、奨学資金制度も廃止するなど、福祉、教育を切り捨てる冷たい区政を進めました。
物価高騰に苦しむ区民や中小業者に寄り添おうとせず、トップダウンで福祉・教育を切捨て、大幅な負担増を進めた決算は認められません。
以下、3つの分科会所管の問題点を各部ごとに指摘します。
官民連携事業として一般社団法人渋谷未来デザインに2094万円を支出しました。これまで区から派遣している職員3人分の共済費258万円と、退職した区の幹部職員の7月以降の報酬719万円を執行しています。
一般社団法人渋谷未来デザインは、区が官民共同で設立したもので、区民の公共財産を出資企業に活用させて、新たな収益事業をおこし儲けをあげさせるための団体です。実際、玉川上水旧水路緑道再整備の農園づくりや水道道路沿道のにぎわい創出を目的とするササハタハツまちラボには、京王電鉄、東急不動産と区が各500万円を支出しており、緑道再整備の指定管理でも民間事業者にもうけを上げさせようとしていますが、渋谷未来デザインがその先導役を果たしています。民間企業の利益のために税金や職員、区民の財産を差し出し、住民の声を無視した事業を進めることは自治体の役割ではありません。
しかも、未来デザインの各事業の詳細などが議会にも報告されず、議会や住民の目が届かないことは重大な問題です。自治体本来の役割を逸脱した税金投入は断じて認められません。
職員の賃金が低いため、必要な職員数が確保できない事態となっており、抜本的引き上げが必要です。保育職員は、募集40人に対して採用はわずか30人です。専門職にふさわしく抜本的な引き上げをすべきです。
過労死ラインの80時間を超える超過勤務を行った職員は38人、100時間超が34人に及んでいることは重大です。長時間の残業にならないよう、日常から余裕を持たせた体制を整備すべきです。
現在の地域防災計画は、発災後4日目に3万5千人を避難所で受け入れる計画となっています。政府が採用したスフィア基準にすれば、1万9千人しか避難所に避難できなくなります。
避難所を増やすとともに、住宅の耐震性を強化し、在宅避難者を支援できる地域防災計画への抜本的変更が必要です。また、在宅避難が原則であることを周知啓発し、必要な防災備蓄にも役立つ防災カタログギフトを配布すべきです。
グローバル拠点都市推進事業には、前年度を上回る3億3273万円が執行されました。環境整備として、この事業の中心的役割を担うShibuya Startup Deckの運営等に7960万円、グローバル化に1億6741万円、実証・実装に3147万円となっています。グローバル化の中には、区が立ち上げた株式会社シブヤスタートアップスに1億3千万円の追加出資が含まれているように、この事業が目指しているのは、海外からの優れたスタートアップ企業の渋谷での起業を支援することです。その一方で、区内の事業者むけの直接支援は、融資のほかには街路灯電気代補助やイベント助成など、商店街活動助成の1億4500万円余りにすぎません。
そもそもスタートアップ支援は財界戦略にもとづいて、新しい技術を取り入れて急成長する企業を作り出す国の産業政策です。区は渋谷から世界に羽ばたくスタートアップを支援するとしていますが、区民福祉の増進にどのように寄与するかは明らかではありません。こうした事業への税金投入はやめ、何よりも区民生活を支える商工業者への支援にこそ使うべきです。
この年度は3回の区営住宅空き家募集が行われましたが、平均応募倍率は高齢者向けの単身が19倍で、世帯用は募集がありませんでした。所得の少ない高齢者むけの住宅確保は区政の重要な施策であるにもかかわらず、区は民間住宅への入居支援にシフトしたなどとして、区営住宅の増設計画を立てようともしませんでした。そればかりか本町と笹塚の借り上げ高齢者住宅を廃止するために、22戸あった福祉人材住宅を7戸に減らしました。区内で公営住宅が不足していることは、申し込み状況からみても明らかで区営住宅の増設計画を立てるべきです。
住替え家賃補助は5件が新規決定されたものの69件から66件に減少し、決算額は、1人当たりの上限額を1万円に引き下げたため、さらに落ち込み前年度比で87%に減少しています。家賃補助は、公営住宅の提供と並ぶ住宅対策の主要な施策です。収入に対してあまりに高い家賃となっている高齢者をはじめ、子育て世帯や若者への家賃補助制度を復活するとともに、住替え家賃補助の助成上限を引き上げて充実を図るべきです。
渋谷駅中心五街区整備事業には、渋谷駅街区北側自由通路整備事業として4億5700万円、渋谷駅南口北側自由通路整備事業に2850万円が執行されました。駅街区北側自由通路の税金投入額は40億円とされてきましたが、累計で43億8217万円となり当初の予定額を上回りました。第3次の事業計画見直しで公費負担が52億円に増やされましたが、これは2018年度分までの工事実績で増えた分とされ、今後、さらに区の負担が増えることになります。これらの事業費は、鉄道事業者や再開発事業者が負担すべきものであり、区民の税金投入は認められません。
神南二丁目、宇田川町地区第一種市街地再開発事業は、神南小学校を整備してもらうことと引き換えに、区役所のメインエントランスに向かう区道と小学校の余剰容積率をマンション建設のために提供することによって成り立つ事業です。この年度、区は事業者と基本協定を締結しました。
小学校の建替えが民間事業者の事業として行われるため、建築費の高騰や人材不足の中で、権利変換計画の合意など、事業が予定通りに進むかは定かではありません。マスコミ報道では、882億円の総事業費は、最大1245億円まで膨れ上がることが想定され、来夏からの小学校の工事に着手する予定となっているが、先行きは不透明だと報じています。また、再開発組合が事業計画の見直しを進めているとされていますが、区が結んだ協定では、建替え計画等の遂行が困難になっても事業者からの協議の申し出がなされるまで、区はなすすべがありません。区民の利便性も、子どもの教育環境も犠牲にし、開発事業者だのみの事業に学校建て替えを委ねることは認められません。
新宮下公園の運営は、指定管理料として1億3004万円で宮下公園パートナーズに委ねられました。指定管理者の自主事業による収入は1億6100万円ですが、その多くは、公園内では原則禁止されている広告による1億1800万円となっています。公園自体が商業施設の附属施設のような公園となってしまっています。開園以来5年間が経過しており、改めて定期借地料の鑑定を行なって見直すべきです。また、北谷公園の自主事業による指定管理者の収入は2130万円でイベント公園のような利用が日常化しています。パークPFIによる公園整備や、公園の指定管理者による運営は公園の商業的利用を促進するものにほかならず、指定管理はやめ、区直営にして、誰でもいつでも自由に利用できる公園にすべきです。
玉川上水旧水路緑道再整備事業には、14億5319万円の予算が計上されていましたが、決算額は、工事費として笹塚、大山緑道のその1工事に、1億8237万円、大山緑道のその2工事に1億80万円、幡ヶ谷緑道のその3工事に1億8920万円のほか、設計委託として、東京ランドスケープ研究所の3億44万円をはじめ、合計で9億4479万円が執行されました。この年度までに緑道整備にかけた費用は累計で約20億6千万円にも上ります。
テラゾ材を使用するために、笹塚緑道では、歩道整備の材料費は1㎡あたり15万8千円、ベンチは1基290万円が費やされ、車止め、水飲みも著しく高額になります。また、農園についても近隣住民の反対意見が多くあります。区が住民の声に耳を貸さず、次々と工事を進めることは認められません。緑道整備計画は一から見直すべきです。
ふれあい植物センターは、この年度、夜間までの通年開設が実施されました。指定管理者の収入は、指定管理料と入園料のみで、収支は若干の黒字になりましたが、区が直営で委託している物販と飲食の収支は約2千万円の赤字でした。さらに、区はこの年度に予定されていた加計塚小学校の用地だった土地に、農園ハウスを建設する予算を繰り越し、今年度に整備しようとしています。
一方で入園者は、8万8千人を超えたものの、無料入園者となる近隣住民の利用は、前年度の8カ月の入園者数よりも少なくなっています。
ふれあい植物センターの運営は、指定管理者に委ねるのではなく直営とし、清掃工場還元施設にふさわしく、地元住民の利用を促進するとともに、2千万円以上赤字のレストランや、農園ハウスの建設は中止すべきです。
環境基本計画の策定後、区は温暖化対策の意識啓発として、省エネ家電買替助成事業を実施しましたが、単年度で終了してしまいました。この年度は再エネ電力切り替え助成事業と電気自動車充電設備助成事業、家庭用燃料電池設置助成事業に縮小し、その規模も区民の意識啓発にふさわしいものとなっていません。
地球温暖化は引き続き、区政でも喫緊の課題であり、区が本気で取り組むことが求められます。23区で当区だけが行っていない2050年ゼロカーボンシティをただちに宣言するとともに、区施設の温室効果ガス排出ゼロを実現し、区民向けの省エネ家電買替助成制度を再開して、特に夏の熱中症対策にも寄与するよう、エアコン設置費助成を創設するとともに、住宅太陽光発電設置費助成を実施すべきです。
幡ヶ谷社会教育館の年間利用人数は、6万1697人で社会教育館5館中最も多い利用数となっています。
幡ヶ谷社会教育館の建て替えは、都営幡ヶ谷原町アパートと一体で整備する協定が結ばれています。区が打ち出した「公共施設再配置の基本的な考え方」では、貸館として機能が類似しているとして区民会館や青年館、敬老館等と同様にコミニュティセンターへの転換を進める、となっています。
社会教育館は、社会教育法に基づく教育施設であり、未就学児から高齢者まで誰でもいつでも無料で学ぶことができる施設です。区民のコミュニティづくりの要の役割も果たしてきた施設です。幡ヶ谷社会教育館の建て替え中の代替施設を確保するとともに、建て替え後も法に基づく社会教育施設として存続させ、社会教育主事を配置して充実を図るべきです。
物価高騰が続き子どもテーブルの運営がどこでも厳しい状態が続いています。渋谷区では社会福祉協議会が、子ども食堂で年間10回以上運営しているところには、10万円、子どもの居場所活動のところには5万円の助成金を支給していますが、お米を始め食料品の大幅値上げにどこも十分な対応ができない、との声が上がっています。渋谷区はこどもテーブルの運営費助成は実施していません。社会福祉協議会や民間企業の支援任せにするのではなく、区として助成金を支給すべきです。
保育園の4・5歳児の定員割れが区立、私立を問わず増えています。今年度から4・5歳児の保育士配置基準が見直され25人に1人になりましたが、まだ欧米の基準と比べると保育士の数が足りません。子どもたち一人一人に寄り添った保育ができるよう現在の保育士一人に対する子どもの数をさらに減らすよう国に求めるとともに、渋谷区独自にも見直しをすべきです。
令和6年賃金構造基本統計調査によると、保育士の平均月給は27万7,200円であり、全産業の平均月給の35万9,600円と比較して8万円も低くなっています。保育士の処遇改善として国に対し、保育士の人件費の引き上げを求めるとともに、区独自にも民間保育士の給与引き上げのための支援を実施すべきです。また、私立保育園の法外援護として東京都の助成に区が上乗せしている宿舎借り上げ助成制度については、区内在住の要件を都内居住に広げるとともに、単身者だけでなく世帯にも支援し、長く保育園で働くことができるように改善すべきです。
給付制の奨学金は、足立区、品川区、港区が大学生等の入学金と授業料まで対象を拡大して実施に踏み出しています。足立区は理工系で最大826万円、私立の医科系で3594万円まで支給、品川区は所得制限なしで各大学の授業料相当分を支給します。しかし渋谷区は、各区の努力に逆行して奨学金貸付制度を廃止しました。24年度には、給付制奨学金に使うようにと目的を定めた寄付金が2億1231万円も区民から寄せられましたが、議会にも知らせず、寄付者の意志を踏みにじって奨学金制度を廃止したことは許されません。直ちに給付制奨学金を創設すべきです。
新しい学校づくりに関連して、小学校施設建設の長寿命化・改築工事費として1億447万円が執行されていますが、このうち、3869万円は神南小学校を民間が整備するために区が要求した水準が確保できているかの検証のための支出で、区が整備すれば不要なもので認められません。また、予算より4334万円の超過となったのは、当初予算で想定していなかった13校のフィジビリティスタディの委託を行ったためです。これは今後の建替えの際に複合化などを想定し、各学校の敷地にどれくらいのボリュームの建物が建つかなどの可能性を調査するものです。しかし、学校と他の施設との複合化は、住民への説明もなされておらず、区が一方的に決めるべきではなく、複合化を前提とした出費は認められません。
また、中学校の長寿命化・改築工事費は10億2624万円で、その内訳は、実施設計費で広尾中学校2億9879万円、松濤中学校2億5131万円、基本設計費として代々木中学校1億3921万円、一貫校として建て替える鉢山中学校と原宿外苑中学校の基本計画費7857万などとなっています。
区民不在で学校の建て替え計画がすすめられ、広尾中学校と松濤中学校で行われた住民説明会は、建物の高さの2倍の範囲にしか周知しませんでした。小中一貫校化が打ち出された2つの中学校には、建替え準備委員会が設置されましたが、鉢山中の保護者や住民代表から、一貫校は決定事項なのか、誰が決めたのかなどの質問や意見が出されても、区は正面から答えずに計画を強行しています。また、区民からは、松濤中学校になぜプールをつくらないのか。子どもたちがかわいそうなどの声も寄せられています。
区民の意見も聞かず、同意もないまま、子どもたちの学びの場であり、地域のコミュニティと災害時の避難所にもなる学校の建て替えを進めることは認められません。統廃合計画をやめるとともに、建て替え計画についてもそれぞれの学校ごとに、地域住民に広く周知し、区民と学校関係者の声を十分に聞いて進めるべきです。
以上反対討論とします。